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チケット転売の経済学的分析

というテーマが今、ネット上で流行っているらしい。それによると、「経済学的にはどう考えてもOK」だそうだ。
そこでの分析は大まかに言って誤りはないように思うが、多くの人たちの経済学アレルギーを刺激したようだ。

私自身も、こうした見方だけが経済学の応用であると思われるのは甚だ心外である。
「ひとりごとブログで意見を書いてほしい」という約1名の熱烈な要望もあって、この問題について考えてみることにした。(といっても私のオリジナルな貢献はありません。)
優秀な経済学者たちが、こんなに面白い問題を放置しておくはずがないからだ。というわけでさっそく文献レビューである。



結論から言えば、まだまだ数は少ないものの、転売による再配分が厚生に与える影響を考察した研究は存在する。
Courty(2003), Leslie and Sorensen(2009)がそれであり、これらを含む形でCourty and Pagliero(2012)がサーベイを行っている。
そういうわけで、転売の是非を研究したい人たちはまず、これらを読んでほしい。

ちなみに、Leslie and Sorensenは転売で厚生が改善すると述べているが、この結果についてアカデミアで十分な合意があるとは思えない。
Courtyによれば、ブローカーの存在は厚生を上昇・低下どちらの方向にも動かしうる。
まだまだ発展途上の分野であり、「経済学的にはどう考えてもOK」とは程遠いだろう。



ここから先は、ちょっとした私見を交えつつのレビューである。

そもそも、なぜ定価販売が存在するのかは長く経済学の謎だった。
私の知る限り、最初にこの点を指摘したのはArthur OkunのPrices and Quantities: A Macroeconomic Analysis, 1981である。
この中で彼は、コンサートやスポーツ観戦のチケットが定価販売されることや、新車が発売されると納車待ちが数か月にも及ぶことを指摘している。超過需要の典型例だろう。

その理由として、彼は有名なfairness仮説を主張した。つまり、原価高による価格引き上げは消費者にfairとみなされるが、需要増加による価格引き上げはunfairとみなされるというものだ。
Kahneman et al.(1986)は、アンケート調査を用いてこの主張をテストし、結果は整合的だと述べている。

以後、fairnessに関する理論を打ち立てようとする研究が登場する。Rabin(1993)はその代表例で、ゲーム理論の均衡の概念としてfairnessを表現することを試みている。
このような概念を用いれば、アーティストと一部のファンは「協力的」な均衡を実現していたのに、ブローカーにそれを脅かされていると見ることができるかもしれない。
その後も理論研究は続いたのだろうが、どうやら際立ったものは見えてこない。

潮目が変わったのは2000年代後半になってからだ。ある面白い報告が、映画産業からもたらされた。
Einav and Orbach(2007)がそれで、なんとアメリカの映画館ではどの映画も、いつでも定価でチケットが売られているという。
映画はもちろんそれぞれ品質も違うし、また週末は明らかにお客さんが増える。なぜすべて均一価格なのか。彼らの考察では、映画産業を取り巻く規制が問題かもしれない。

ここに、経済学研究がなかなか転売の是非について結論を下せない理由のひとつが隠れている気がする。
本来、ある産業のありようが効率的か否かを判断するためには、十分なデータと、その産業を取り巻く基本的な情報(法やビジネスモデル、客層)が不可欠である。
しかし、コンサートのような業界では、第三者がこうした情報を観察することが比較的難しいのかもしれない。

Courty and Paglieroは音楽週刊誌のデータからアーティストやチケット価格の情報を収集しているが、転売価格は見えない。Leslie and Sorensenはオンラインの転売価格も集めたようだが、サンプルは小さい。
実証分析の核となるデータが少なく、今後研究の進展が期待される。



やや散漫になってしまったが、転売・オークションについて専門外の私が数時間調べただけで、この程度の文献は見つかった。
一番最初に挙げた、転売は「経済学的にはどう考えてもOK」などという考えが主流ではないことだけはご理解いただけただろうか。

残念ながら、経済学で転売の是非について白黒をつけるのは、そう簡単でない。
この問題に決着をつけるためには、なによりも十分なデータと、適切な理論が必要である。

業界は徒に転売反対を訴えるのではなく、どういった客層が転売による「損害」を被るのか、なぜ定価販売を維持したいのかを説明していくことが必要だろう。
もちろんアカデミアも、世間でこれだけ注目を集めている問題について、解決策を提示できるように努力していかなくてはならない


追記(2016/8/30)
Leslie and Sorensenは改訂版(2014)が出ていた。ご指摘感謝します。
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